雷は私の後ろの木に直撃し…そして私はまだ生きていた。つまり、私は神との賭に勝った。さあ、配当をよこせ!私に幸せをよこせ!!
私の叫び声は誰にも届くことなく虚空に消える…分かっていた。神様なんていないんだ。誰も私を助けてくれない。私は私自身の力でこの窮地から脱出しなければいけないんだ。歩き出そうと足を踏み出した途端、ぬかるみに足を取られて私は下の道に転げ落ちた。
そこで私は電話ボックスを見つけた。お金なんか持ってはいなかったが、風雨を一時的にでも凌げるのはありがたかった。扉を閉めると思いの外暖かくて、そのありがたみを改めて実感する。
人心地着いた私の目に信じられない物が映った。見間違いでないかと疑いながら手を伸ばす。それは10円玉だった。これで電話をかければ私は助かる!?でもどこへ?
頭の中に父の最後の言葉が浮かんでくる。「高野一二三先生を頼りなさい」…そして、まだ何かを言っていた。私に何か重要なことを伝えようとしていた。それは何だった?
父の声なき声を必死に思い出す。数字?そう数字だった。その数字の意味は…電話番号?そう、電話番号だ。高野先生の電話番号に違いない!
震える指でダイアルを回す。間違ったらそれで終わり。高野先生がいなかったら、話を聞いてくれなかったらそれで終わり…
幸運にも高野先生は在宅で電話に出てくれた。焦るな。順序立てて話をしなければ。高野先生は父のことを覚えていた。「田無君は私に何と?」そう問われて私は頭が真っ白になってしまった。何か言わなければ。何を言ったらいい?そう、私は助けを求めていたんじゃないか!
「私を助けてください!!」
そう言い終わるかどうかのタイミングで電話が切れた。私の言葉は高野先生に届いただろうか?届いたとしても、今すぐ私を助けに来てくれる訳じゃない。それに私はここがどこかも伝えてないじゃないか!私は再び絶望に包まれる。
車の音が聞こえた。気付かずに行ってくれることを祈って身を縮こまらせる。しかし、現実は甘くなかった。私は見つかり、そして捕まった。
以前聞いた脱走に失敗した子の末路が頭をよぎる。水を飲めないアヒルの刑、潰れた芋虫の刑、手足をもがれた豚の刑…そして、誰も帰ってこない。嫌だ、嫌だ!嫌だ!!
施設に戻って私は愕然とした。捕まったのは私だけじゃなかった…私を犠牲に逃げ延びたと思っていた恵理子たちもそこにいた。そして伝え聞いた脱走者の末路が真実であったのだとその身を以て体現していたが、それでも私はそれを信じたくなかった。だってその光景はあまりにも常軌を逸していたから。
あんなに*したらあまりにも**…だって、**を*したら**なんてことは誰だって知ってるはずじゃないの?ならそれをされている彼女たちは…
そして、私も指をかみつぶしたあの男にトイレの壁に押しつけられ吊し上げられることになった。これは多分、手足をもがれた豚の刑…そこに他の男達も入ってくる。目の前が真っ暗になった…
刑は執行されなかった。あの時、すんでの所で施設に連絡が入ったらしかった。明日引き取られることになった私に不必要な傷があって騒がれるのを恐れたのだろう。もし、高野先生の行動が少しでも遅かったら私は多分今頃…
迎えの車の中、高野先生が自分の名前をガラスに書く「一二三」。みよと呼んでも良いかい?と問われて私はガラスに自分の名前を書いた「三四」。今日から私は高野三四だ。
私は研究に打ち込むお爺ちゃんを頑張ってお手伝いした。研究そのものを手伝うことは出来なかったけど、お掃除や本の整理なら私にも出来る。今は無理だけど、たくさん勉強していつかお爺ちゃんの研究を手伝えるようになりたい。それが私の当面の目標になった。
今日はお爺ちゃんの最良の日になるはずだった。お爺ちゃんの上官だった小泉のおじさんがお爺ちゃんの研究を援助してくれる人たちを見つけてくれたのだ。今まで個人レベルに過ぎなかった研究が大勢の人たちの手で飛躍的な前進を見せるだろうことに、何より自分の研究が認められたことにお爺ちゃんはとても喜んでいた。
…しかし、その期待は無惨な形で裏切られることになる。
やってきた人たちは、お爺ちゃんの研究を徹底的に批判し、否定し、嘲笑した。あまつさえ、お爺ちゃんが必死に研究してきたレポートを投げ返したのだ。打ちのめされたお爺ちゃんがそれを掴めるわけもなく、レポートが床に落ちる。そしてそれが踏みつけられるのを見て、私はとうとう我慢が出来なくなった。
この研究はお爺ちゃんが生涯の全てを捧げた物。なら、このレポートはお爺ちゃんそのものといえた。踏まないで!お爺ちゃんを踏まないで!!
そんな私を諫めたのは他でもないお爺ちゃんだった。張られた頬の痛みに愕然とする。今までお爺ちゃんに手を上げられた事はなかった。私が失敗しても声を荒げることすらなく、それが返って辛いくらいだった。そのお爺ちゃんが…
お茶の片づけを頼まれて部屋を出た私の耳に押し殺した泣き声が聞こえてきた。その段に至って、私はようやく自分の愚かさに気付いた。お爺ちゃんが辛くなかったわけがない。どんなにけなされても必死に我慢して毅然とした態度をとり続けたのはお爺ちゃんの最後のプライドだったのだろう。それを私が台無しにしてしまった。お爺ちゃんのそんな気持ちを酌めない私がお爺ちゃんの研究を手伝っていた気になっていたなんて、なんておこがましいのだろう…私はこの時決心した。
人の命が地球より重いなら、私の小さな決意は地球より重い。気高く強い願いは、必ず現実となる。
それから、私は必死に勉強した。東大を主席で卒業し、主席にしか参加を許されない同窓会へ名を連ねることになった。人脈は強力な武器だ。
お爺ちゃんは孤高の天才だった。だから誰にも理解されなかった。ならばこそ私は人脈作りを怠らなかった。利用できる物は何でも利用する。そして、あの日、踏みつけられたこの論文を誰もが競って読むようにしてみせる。お爺ちゃんを神にしてみせる!
絶対の意志が絶対の未来を紡ぎ出す。それは例え神だろうと覆せない。神がサイコロの1を私に突きつけるなら、私はそれを6の目を上にして突き返してやる!!
それから数年。入江機関が設立され、私も雛見沢に足を踏み入れることになった。私はすぐに村唯一の神社に向かう。
神様には一つだけ借りがあった。あの時の十円玉。これがなければ私はあの時に…でも、この十円玉だけでもどうにもならなかったのもまた事実だ。私が電話番号を記憶してなかったら。お爺ちゃんがすぐに連絡を入れてくれなかったら…私は自分の力で未来をたぐり寄せ、お爺ちゃんに救われて生き延びたのだ。決して神様に助けられた訳じゃない!
でも、十円玉がなければそのきっかけすら掴めなかったのだから一応、感謝の言葉も添えて賽銭箱に放る。あの時借りた十円を返そう。これで貸し借りはなしだ。
しかし、あろう事か十円玉は空中で止まり、私の胸に向かってはじき返されてきた。信じられないことは更に続いた。賽銭箱の向こうに誰かが立っていた。それは決して人ではないことは一目瞭然だった。妖しく光る目、憤怒の表情、頭に生えた1対の角…そしてそれ以上にあふれ出す人ならざるモノの気配…私は瞬時に理解した。こいつがこの神社に祀られている神なのだと。
強い意志は運命を強固にする。その言葉は私の到った結論を肯定していた。神にお墨付きをもらってとても気分が良かった。それどころかこの神は、私にそれが正しいのだと確認してもらいたい様にすら見えた。とても可笑しかった。
僕はあなたに負けない!僕たちはあなたの意志の強さに負けない!!そんな神の宣戦布告を私は真っ正面から受けて立った。そんなことに今更気付いたような奴に私の意志が負けるものか。初めは圧倒されたが、今やその神の姿はとてもちっぽけなモノに見えた。
そもそも、この宣戦布告こそが神が私を対等な存在だと認めた証ではないか!?
間抜けなガキめ!貴様を神の座から引きずり降ろしてやる!!
鷹野の壮絶な半生とそれによって培われた強固な意志の力。今までいくら挑んでも打ち破れないのは当然だった。梨花と羽入がただ幸運を待っていただけの間に、鷹野はその意志の力で運命を打ち破り続けていたのだ。これでは勝負になるわけがない。
しかし、ようやくそのことに気付くことが出来た。最後の最期でようやく巡ってきた対等に戦える機会。これが最後なら後は全力を尽くすのみ。結果はどうあれ悔いを残さぬよう最後のひとかけらまで力を出し尽くそう。そして信じよう。この運命が必ず打ち破れることを…
高野式呼吸法。雛見沢症候群だけじゃなく普通のストレスとか心神性障害にも効果ありそう。健康法としても優れもの?一二三の立派な研究成果の一つだと思う。
羽入・鬼神モード降臨。この神としての一面があって、初めて羽入と言うキャラは完成型に。とはいえ、いつものあぅあぅの方が素ではあるんだろうけど(--;
羽入が10円玉を突き返した理由についてはコミックアンソロジー(解顕し編)に素敵な見解が(笑)
羽入が鷹野を犯人と知っていることから、この羽入は皆殺し編後であることは確定。梨花を伴わなければまだまだここまで巻き戻すことは可能らしい。いつも羽入が先に来ていて今の時間を教えているらしいし、このままこの世界の梨花が魔女梨花に上書きされるのを待っているのか?それまで梨花とどういう風に接しているんだろう?
以下、ネタバレ白字反転。
原作では既に刑罰が執行された後助け出された美代子。文中で執行前に助け出された事にしたのは、トイレに後から入ってきた男達の様子と迎えに来た車に乗る辺りの描写から。あの刑を受けたら、自力で歩くことはおろか、数日は錯乱状態で寝たきりだと思うし。
恵理子たちもこの時助けられているとしても五体満足で済んでいるかどうか…
オヤシロバリアー。十円程度ならはじき返せるよう。まあ、だからといってそれがどうしたレベルなんだけど。せめて圭一のバットをはじき返せたら(笑)
どうやら、次回からは原作のカケラ紡ぎ。羽入視点で雛見沢連続怪死事件の真相と梨花の努力を見ていくことになりそう。一年目はバラバラ殺人なのでスプラッタ…規制が入ってそうだなぁ(--;